「恭くんには絶対こっちが似合うよ」
「そんなことないよ、綾ちゃん。恭也は黒系が好みだから、きっとこっちのほうがいいよ」
ワイワイ、キャッキャッ
手にしている商品を、彼女の前で合わせてみて「似合っている、いない」といってはとっかえひっかえ試し、あれこれ議論している。
まさに全開乙女ワールド。無粋な男が入り込めない空間を彼女達は作っていた。
たとえ男性が近くにいたとしても入りがたいエリアで彼女たちはショッピングを楽しんでいたのだが。
「なあ、忍に綾…………もう帰ってもいいか?」
「「ダメッ」」
二人についていけないというか、自分のいる場所にほとほと疲れてきたのか、首をすくめながら彼というか彼女というか…………高町恭也は友人である月村忍、藤代綾子の二人に尋ねてみた。
するとどうだろう。なかなか意見の会わない二人が声をそろえて恭也に怒って見せる。
忍は呆れたような表情をして、綾子は頬を少し膨らませまるで幼子のような表情で。
彼女たち二人…………特に今にも泣き出しそうな表情で怒っている藤代を前にすると、恭也は何だか申し訳ないような気になり、小さくなるしかなかった。
「もう、この際恭也に決めてもらおう」
「そうね、忍ちゃん」
一向に決まらない、恭也も意見を出してくれないそれを手にして、二人は見合わせたように頷く。一歩、まるで恭也に対して迫るように前に出て手にしている商品を付き足して問い掛けた。
「恭也はどっちがいいの?」「恭くんはどっちがいいの?」
二人の手の中にある『それ』
忍のは黒を基調としたもので、所々に意匠を凝らしたレースの飾りが付いている。
綾子のは、ピンク色や白色などで目にも鮮やかな明るい色ばかりのものである。
『それ』は…………
「…………女の子がそんなに堂々と下着を突き出すのはどうかと思うんだが」
困り果て、搾り出すようにそれだけを言うと、恭也は気恥ずかしげに顔を赤らめて、忍たちがジャッジを求めている下着から視線を逸らした。
二人は不満に思ったのか、さらに恭也を追い詰めるようにブラジャーとショーツで壁を作る。
「別にこれくらいふつーだよね?」
「そうだよ、ここで試着して見せろって言ってるんじゃないしさ」
藤代は忍に「ねーっ」と笑いかけながら答え、忍は口を尖らせてブーイングしている。
そんな彼女達はさておき、下着包囲網に囲まれた恭也はというと――――――血の気がうせ青白く顔面蒼白となっているご様子だ。
「いや、そういわれても非常に困るんだが…………。
というか、そもそも忍の持ってる下着は何だ?ひ、非常識じゃないのか」
忍の持っている黒のショーツやブラ。色が色なだけに、大人の雰囲気をプンプンと醸し出している。だが、もっと重要な点が恭也のなかにはあった。それは――――――――――
明らかに生地が薄く小さいのである。
どう見てもそのショーツを身に付けたら色々と見えてしまったりはみ出してしまったりしそうだ。
「えー、ちょっとオシャレする女の子ならこれくらい普通だよ」「私も、これを日常で使うのはちょっと恥ずかしいかな」「うわッ!綾ちゃんが裏切った!!」「そこまで言う?」
「いういうー。でもさ、正直これどう?デザイン、可愛くない?」「うん、カワイイよ。
きっと恭くんに似合うと思う」「でしょでしょー」
「…………」
矢継ぎ早に喋り捲る月村・藤代嬢。会話の流れから黒い下着はもはや買わねばならないのがひしひしと伝わってきたのか、恭也は頭痛のするこめかみに人差し指と親指を当て沈痛そうな表情で落ち込んでいた。
「はーい、お買い上げー♪」
ウキウキいそいそと、手にしている数点の大人の色香ムンムンの黒下着をカゴに入れて嬉しそうである月村忍。何だか仕草や包囲の仕方が段々と母、高町桃子に似ているような気がして、気が気でない様子の恭也。
一方、仲がグッと近づいたばかりの藤代綾子は――――
「恭くん、私の選んだのはどう?」
今度は綾子の手にある下着の群れが恭也の視線に飛び込む。
忍の選んだ黒を基調とした艶やかな華の刺繍されたセクシーで大人のランジェリーとは正反対に、白と黄色などの明るい色ばかり。小さなリボンやハートのあしらわれた物ばかり。
少女趣味とも純真とも言える下着ばかり。
猫のように少し釣り目でだが、常に柔和な表情をしていうるためか愛嬌があり、無邪気に笑うとまるで子猫のようで可愛らしい。そんな藤代綾子が身に着ければ彼女の魅力がグッと上がること間違いないだろう。
「いや、俺よりも…………綾が使ったほうが似合うものばかりだと思うんだが」
「え、あッ…………ごめん、自分の好みが出ちゃったかな」
「謝らないでくれ、買い物に付き合ってくれと頼んだのは俺なんだから――――。
ただ、純粋に君のほうが似合うと思ったから言っただけだ」
「あ、あうッ……」
思いがけない恭也の一言に、藤代は頬を真っ赤にさせる。
みるみるうちに、頬だけでなく顔全体がカッカと火照っていくのがよく分かる。
あまりに自然な女の子の仕草に、恭也と忍――――――――そして、
「「「ウォーーー!!!藤代が顔真っ赤にしてる。マジ可愛!」」」
「ちょ、お前らやめろって。みっともないって言うか、藤代さんが可哀想だ」
「うるせえ、赤星!藤代さんはお前の彼女とかじゃねえだろ!」
「そうだそうだ。ついでに言うと、高町とはただの友達だろ!」
「月村さんにいたっては、高町がいるから関係があるだけだろ!」
文化祭の準備をしていたクラスメイト三人と、暴走しそうな男子どもの監視を考えて付いてきた赤星だった。
「黒ガーター、黒ガーター!!」「てか、お前まだ言ってたの?」「悪いか!!」「悪くないけどさー」「お前はどうなんだよ」「俺?俺はそうだな――――黒よりも白とか水色とかの方が好きだから、藤代が持ってるのを選んでくれないかなーと思ってる」「何!」「だってよ、白のほうがこう、スカートの隙間から見えたりするのがエロくね?」「う、一理あるな」「だろ?」「………………」「おい、どうした?」「って、鼻血鼻血」「す、すまん、俺はここまでだ…………後は頼む。二人とも、赤星にいい思いをさせないでくれ」「馬鹿野郎!!俺たちの戦いはまだ始まったばかりだぞ!」「そうだ、まだ応急処置をすれば…………メディーック!」
「ってか、オペラグラスで覗いたりしてるからだろ?」
阿鼻叫喚…………にしては、何処か間の抜けた光景を4人組はかもし出していた。
オペラグラスでじっと覗いていた一人以外は、あれこれ脳内妄想でもしていたのか、恭也が下着を前にあたふたしている様子を見ては、頬をだらしなく緩めている。
そんな3人を一歩はなれたところから憂鬱そうにしながら監視している赤星が、重いため息をひとつ吐きながら三人の視界を遮るように立った。
赤星の行動に対して不服なのか、三人はねめつける様に視線を上げる。
「ほら、もう気は済んだだろ。戻って文化祭の準備をするぞ」
真面目なのか堅物なのか、赤星の言うことはもっともだった。
彼ら3人組は文化祭の準備を放ったらかしにしてここにきていたのだ。
キャッキャッと楽しげにしている恭也たちの様子が見られたので、もう満足して仕事に戻ってほしいのが赤星の心情である。
ただ、人間の欲というものは際限がないもので――――
「馬鹿野郎!!ここまできたら、今度は接近して会話を録音するに決まってるだろ!」
鼻血を垂らしながら、オペラグラスを持っている一人が拳を握り締め、雄弁に宣言をした。
彼の姿に、一緒についてきた二人が鼻息を荒くして問いただし始める。
赤星は語る、彼らの姿はさながら血に餓えた狼のようだったと。
「なに、お前。テープレコーダまで持ってきてるのかよ」「フッ、任せろ。こんな事もあろうかと、常日頃から持ち歩いている」「あまり褒められたものじゃないと思うんだけど」「何を言うか!!あんな美少女三人組の会話だぞ!何気ない会話だってオカズになるのが分からんのか!!」「だから貴様は阿呆なのだ!!」「や、そんなに力まないでよ。気持ちは分かるから」「ならば喜べ、同士よ」「ガンホーガンホー!!」「○○○、いきまー…………」
突然3人組の会話が途切れ、後退り始めた。
何故急に急いで帰ろうとするのだろうかと訝しげに思いながらも、まあ戻って仕事してくれるならいいか、と安易に考えていた赤星は見落としていた。
先ほどまで興奮していた3人組の顔が真っ白を通り越して真っ青な顔色になっていたことに。
「「「ッ…………」」」
声にならない悲鳴を上げ、自分たちのカバンを必死に抱えて一目散に逃げ出すように帰っていく3人に流石におかしいと思ったのか赤星は声を掛けようとして、
「おい、何だよ急に逃げるように――――「こんなところで何しているの赤星君?」」
赤星の背中に、それはそれは美しく優しい音色の言葉が掛かる。
だが、耳に届く声とは裏腹に、彼の背中には冷たく嫌な汗が流れた。
ゆっくりと振り返る。赤星の背後に立っていたのは優しく慈母のように微笑んでいる忍だった。彼女の遠い背後には、未だに綾子と恭也があれこれと下着を選んでいるのが見える。
「答えてくれないの?じゃあ、もう一度聞こうかな?
赤星君は、いったいここで何をしていたのかなー?」
忍の目から笑みが消えた。頬だけを緩めて柔らかな笑みを残っている。だが、瞳は今にも赤星を射殺そうとするほど鋭く研ぎ澄まされていた。
逃げよう――――赤星の頭の中にあるエマージェンシーコールが酷くやかましく鳴り響く。足を動かし一目散に逃走しようとする。
だが――――
「動くな」
何の変哲もない一言だった。
逃げだそうとした赤星の足がピクリとも動かなくなってしまう。
彼は見てしまった――――見てはならない彼女の瞳を。
「無駄な抵抗はしないで、私の後をついてきて。
言い訳は恭也のところで聞いてあげるから」
人のものとは思えない血色の瞳、真っ赤な魔眼。
いつの間に、忍の瞳はこんな色になっていたのだろうか?
赤星の頭には、そんなことを考える余裕すらなかった。
場を支配するあまりに重苦しい彼女のプレッシャーに飲み込まれ思考することを一切放棄…………否、赤星のすべてが支配されていたのである。
「ッ……………アッ」
喉の奥に引っかかり声にならない声を発する赤星。
足取りはゆらりゆらりと頼りない姿から、まるで生きる屍のようである。
恭也たちのところまでまだ距離があるというのに、忍は赤星のほうに振り返り笑って見せる。
「赤星君、私の目のことは忘れてね」
静かな口調でそういうと、忍はゆっくりと両目を閉じる。
再び彼女が目を開いたときには、いつもの黒い瞳になっていた。
「あれ、俺どうしたんだ?」
「やだなあ、赤星君。寝ぼけているの?恭也のところにいくんでしょ」
まるで起きぬけの寝ぼけたような赤星のことを笑い、忍は彼のことを恭也の元へと誘導してみせる。先ほどまでとは違い、覚束ない足取りであった赤星の足はシャンとしたものとなり、口もしっかりと動かせる。
そんな彼のことをいまだに笑っているものがいた。
忍はいたずらに成功した子供のように、ニヤニヤと意地悪い笑みを顔いっぱいに浮かべる。
そう、彼女のいたずらと………………復讐をしたのである。
後は結果を待つのみ――――はやる気持ちを抑え、彼女は赤星と一緒に下着売り場で右往左往している恭也の元へと歩いていく。
「で、お前はこんなところで何をしているんだ」
澄んだ声だった。
少し硬質的で柔らかさなんてちっともない。まるで赤星を詰問しているかのようだ。
女性下着売り場のど真ん中。冷ややかな視線で赤星のことを見つめた恭也が問いかけた。
あまりに冷めた恭也の瞳の中には、それはもうブリザードでも吹き荒れるがごとく赤星のことを見下げている。
赤星株の株価が一気に暴落しているこの状況の中、彼がいったい何を考えていたかというと――――
(な、何でこんなに背中がゾクゾクするんだ。ってか、俺そんなこと考えている場合じゃないだろ。高町に弁明をしないと。えーっとえーっと)
着実にMに目覚め始めているようだ。先ほどまで忍と対峙していたときには冷たく嫌な汗が流れていたのに、彼の背中はゾクゾクと走る何かだけがある。彼の背中を走る『何か』は想像に任せるとして――――
「赤星君、ホントに何してたの?答えてくれないと何も変わらないよ?」
「っていうか、女の子のお買い物をあとつけて覗くなんて、サイテーッ」
「忍の論理からすると、俺がここにいるのもおかしいんじゃないか?っとそれはいいから赤星全部話せ」
普段と変わらずのんびりした声の藤代綾子に、努めて怒りを抑えた声で赤星を追い立てる月村忍。忍の言葉を聞いて思わず苦笑を浮かべ、赤星に先を促す恭也。
幾分柔らかく掛けられた恭也の声と、緩められた表情に押されるように赤星は話し出した。
文化祭の準備をしていたとき、クラスの一部男子が恭也たちの買い物が気になり見に行ってみようとしていたこと。自分は3人組が変なことをしないように見張るつもりで付いてきて、肝心要の3人組はもう帰っていることを。
つらつらとした独白を聞き終えると、恭也と綾子は赤星のことをある程度許していたのか幾分穏やかな表情をしている。だが、二人とは違い忍だけは赤星のことが許せないのか不満げに唇を尖らせている。
「そうむくれるなよ、ここにこいつを連れてきただけでもう十分罰せれただろ?」
言われてハッとしたように赤星は周りを見渡した。
周りに要り従業員やお客が彼のことをいぶかしむ様に見ている。
同級生3人から攻め立てられているのだ、否応なく目立つこと間違いない。
(二股がばれたのかしらねーあの子)(なかなか可愛い顔立ちしてるのに)(後つけて来たとか言ってたから、もしかしてストーカー?)(ウソ、ストーカーって警察呼ばないと)
(ううん、そういのとは違うみたい。でも、こんなところまでつれてこられるなんて何かやましい事があるのよ)
ヒソヒソと好奇心からくる無邪気なナイフが、赤星の心を次々と抉っていく。
確信を抉るものもあれば、状況から見た憶測まであるが、赤星にとっては『そのように見られてしまった』ことが何よりも辛いようである。もともと友人想いで男気に熱い男だ。
心理的ダメージは大きいに違いないだろう。
証拠に、彼は手を目一杯握り締めて何かに耐えるように震えていた。
(ちょっとやりすぎたかなー。早く会計を済ませて恭也の家に避難しよっか)
顔が青ざめている赤星の様子を見て、少しだけ悪びれるように舌を出して忍は会計を済ませ、ここから立ち去ることを提案する。恭也は神妙に頷き、綾子はあわてた様に手にしている下着の数々をカゴに入れる。
先導するように忍は買い物カゴを持ってレジへと向かい、綾子は急ぎ足で付いていった。
「おい、赤星行くぞ」「…………」
動こうとしない赤星に恭也は声を掛けて促すが反応がない。
赤星の様子がおかしい。恭也は少し心配になり顔を覗き込んでみると俯いている彼の目元には薄っすらと涙が浮かんでいた。
(困ったやつだ)
ため息を吐く代わりに、恭也は彼の右拳を少し強く叩いた。
するときつく握られたては軽く開かれ、俯いて反応のなかった赤星が顔を上げる。
視界にあったのは厳しい表情をした恭也の顔だった。
眉根をきつく寄せているために、眉間に皺が寄っている。この姿を忍と綾子が見ていたらぶつぶつと小言を言ったに違いない。せっかく可愛い顔が台無しだよとかなんとか。
「まったく、世話を掛けさせやがって。行くぞ」
「えっあっ高町?」
顔を上げて困惑している赤星の顔を見ると、恭也はフッと表情を緩ませて頷いた。
叩いて開かせた右手をつかみ、引っ張るように歩いて赤星を連れて行く。
急な展開についていけない赤星は唖然とした状態で、右手を恭也の白い手に包まれていることに気がついていなかった。
「面倒を掛けやがって、どうしたんだお前」
「いや、その――――すまん、高町」
「しかし、珍しいことがあるものだ。俺がお前の世話を焼くなんてな」
ある程度女性下着売り場から遠ざかると、赤星のほうに振り返り声を掛ける。
握っていた右手も離して、小さく笑いかけた。
家族と一部の心を許した友人だけが見ることのできる恭也の微笑み。
女の顔になってからはおそらく初めて見たであろう赤星は、美しい顔立ちと相まって何ともいえない色香ただよく恭也の笑みにドキドキとしていた。
「ほ、本当にすまない」
「まあ、いいさ。今度お前の家で飯を奢ってくれればな」
「それ、俺の懐から出るんだぞ」
「だから言っている。まあ、まだ先のことだ。しっかりと蓄えておけよ」
「先って、どうしてだよ?」
「お前な、俺の体が戻らない限り行けるわけないだろ」
「あ、そうだったな。すまん」
「ああ、まったくだ。奢ってもらうときは家族総出で行くから覚悟しておけ」
「勘弁してくれ、高町。俺破産しちまう」
「いいじゃないかそれくらい。友人想いなお前には安いものだろ?」
冗談めかしたような会話をするときにでる、微かに浮かぶ悪戯っぽい笑み。
何気ない言葉で少し怒らせてしまったときに出る感情と態度。
それら全てにドギマギしながらも、決してそれを表に出ないように気をつけながら赤星は恭也と喋っていた。
そして、彼は恭也の言った言葉の中にあったあるひとつのことが気になってしまう。
(元に――――戻る、か)
当たり前なことなのに、忘れかけてしまっていたこと。
恭也は何かしらのアクシデントがあって、今このような状況にあるというのに、酷く馴染み違和感なく接していられることで生まれてしまう思いがあった。
(もったいない…………な)
『ピリリリリッピリリリリッ』
「もしもし、忍か?どうした」
『どうしたもこうしたもないよ、会計済ませてみたら恭也ちっとも付いてきてないじゃん』
「ああ、すまん。赤星のやつが愚図ってな」
『もー、赤星君に言っといて『バカ』って』
「分かった伝えておく」
『あ、ちょっとまって綾ちゃんが話したいことあるみたい』
『ねえねえ、恭くん。ブラの付け方とか分からないよね?』
「分かっていたら男として非常に問題があると思うんだが」
『あ、アハハッ。所で、これから用事がなかったら私と忍ちゃんで恭くんにブラの仕方教えてあげようと思うんだけど――――だめ?』
(それは勘弁してほしいところだが、二人に教えてもらわなかったとしたら家族…………美由希かフィアッセ。最悪でもかあさんに教えてもらうことになるのか。あれらに教えてもらうくらいなら…………)
『もしもーし、恭くん』
「あ、ああ。聞こえてるから。そうだな、二人さえよければ教えてくれるか?」
『うん、わかった。じゃあ入り口まで来てね恭くん。待ってるから』
パタンと携帯をしまう。
先ほどの会話の流れから分かっているのか、赤星は困ったように笑っていた・
ニヤリと意地悪い笑みを浮かべて、赤星に忍の伝言を伝えると、
「バカってさ。忍が言っていたぞ」
「面目しだいもありません」
「なんだ、面白くない」
深く深くうなだれる赤星を見て、面白くなさそうに恭也は鼻を鳴らした。
いつもと変わらないそんな仕草すら、見た目が変わってしまうために、なんと反応してよいのか戸惑っている赤星のことをよそ目に、恭也は一声掛けて、
「赤星、お前はこれからどうするんだ?」
「学校に戻って文化祭の準備の続きでもするさ。急げばあと一時間は出来る」
「そうか、じゃあな。また明日」
「ああ、高町。また明日」
さっさと歩き出した恭也の背中を見送る。
遠く遠く小さくなっていく彼女の背中が見えなくなると、彼は近くのベンチに腰掛ける
赤星雄吾18歳は珍しいため息を吐いた。
「はぁー、俺どうしたんだろう…………」
どことなくそのため息には熱っぽいものが混ざっていることに、彼は気がつこうとしなかった。
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