『鋼鉄の守護者』





〜第二斬〜





恭也と宗介が対峙した夜の翌日。

「彼は、相良宗介といって、俺の古い友人だ」

朝食の席でそう言って、宗介を紹介する恭也がいた。
恭也に紹介され、宗介は全員に向って頭を下げる。

「相良宗介と言います。恭也さんとは、古い友人です」

昨日、お互いに名乗った後、打ち合わせた通りの関係を口にする。
その際、お互いの呼び方で一悶着あったりしたが、結局は名前で呼ぶことにした。

「恭也殿」

「宗介くん、殿はやめてくれ」

「そうですか。ならば、恭也さんで」

「ああ、そっちの方が良い。他の者もさん付けでいいと思う」

「了解しました」

そんなやり取りを思い出しつつ、恭也は桃子へと話し掛ける。

「という訳で、暫らく居候させて欲しいのだが」

「どういう訳かは分からないけど、あんたの友人なら別に問題ないでしょうし」

「ああ、助かる。部屋は俺と同じ部屋で良いから。
 それと、すまないが、宗介くんの分の朝食も頼む」

恭也の言葉に、晶は返事を返すと、すぐに調理に取り掛かる。

「それで、恭ちゃんとはどういった知り合いなんですか」

興味津々といった様子で尋ねてくる美由希の顔には、恭也の知り合い=腕の立つ者という期待が現われており、 もしそうならば、手合わせをという雰囲気を纏っている。
それに苦笑しつつ、恭也は美由希に釘を刺す。

「宗介くんは、剣術はしないぞ」

「あ、そうなの」

少し肩透かしを喰らったような顔を見せる美由希に、苦笑を深める。
そこへ、晶が宗介の朝食を作り終えて並べる。

「それじゃあ、いただきまーす」

それを見て、桃子が手を合わせたのを合図に、それぞれに食べ始める。 宗介が食べるのをじっと見ている晶に気付き、宗介が顔を上げる。

「何か」

「いえ、味の方はどうかと思いまして」

「非常に美味しいです」

その言葉を証明するかのように、宗介は箸を休める事無く動かす。

「お代りしますか」

「はい、お願いします」

「晶、俺も頼む」

「はい、師匠」

晶の問い掛けに、宗介は空になった茶碗を差し出し、同じく恭也も空になった茶碗を差し出す。
二人は朝食を終えると、部屋へと戻り、これからの事について話し合う。

「俺は今日は外せない講義がある。
 本来なら、そんなものは放っておいて、フィアッセの傍にいるんだが」

「任せてください。恭也さんの居ない間は、自分が責任を持って護衛をします」

「ああ、頼りにしている」

「はっ」

「それと、フィアッセには心配を掛けたくないから、この事は」

「勿論、口外するつもりはありません」

「そうか、では頼む。何かあれば、携帯へと連絡を」

「了解であります」

生真面目に返事をする宗介に苦笑しつつ、恭也は鞄を掴むと玄関へと向う。

「では、いってくる」

「恭也〜、寝ないでちゃんと授業受けなきゃ駄目よ〜」

「失礼な。それよりも、フィアッセは時間は大丈夫なのか」

「うん」

出掛ける恭也に声を掛け、恭也を見送ると、フィアッセも店へと向う準備に取り掛かるのだった。

 ◆ ◆ ◆

恭也が出掛けてから暫らく後、フィアッセも店に出る為に家を出る。
それを少し離れつつ見ていた宗介も、ゆっくりと動き始める。
フィアッセに気付かれないように、距離を開けて後を付いて行く。
これといった問題もなく、翠屋へと入って行くフィアッセを見遣りつつ、宗介は何処で見張るか頭を捻る。
一番良いのは、中で見張る事なんだが、それだと気づかれてしまう。
かと言って、店の前で見張る訳にもいかない。
悩んだ挙句、結局、宗介は店の中へと入る事にした。

「いらっしゃいませ〜」

席へと案内すべく声を掛けてくる店員に断わり、カウンターへと座る。
こういった店をあまり利用しない宗介は、無難にコーヒーを注文する。

(確か、千鳥に聞いた話によると、こういった店で長居するには、コーヒーを頼むんだったな)

少し間違った知識をおかしいとも気付かず、宗介は店内をざっと見渡す。

(道路に面した側の窓が大きすぎるな。あれでは、外から中が見えてしまう。
 出入り口は、表に面したのが一つと、確か裏口に一つ)

いざという時の逃走経路に考えを巡らせる。
昨日のうちに裏口から通じる道は調べてある。
その中から、最も適した逃走経路を考えていると、コーヒーを持ってフィアッセが現れる。

「えっと、宗介で良かったかな?」

「はい、そうです。フィアッセさんでしたね」

「ええ。はい、こちらがご注文の品になります」

そう言ってコーヒーを置くと、フィアッセは宗介に話し掛ける。

「折角、尋ねてきたのに、恭也は学校だからね。ゆっくりしていってね」

「はっ、恐縮です」

宗介の返事に小さく笑うと、フィアッセはそう言えば、と話を続ける。

「宗介は学校とかは良いの?」

「自分は行ってませんから」

「あ、そうなんだ。じゃあ、働いているの」

「そうなります」

「へー。どんな仕事?」

「……」

フィアッセの質問に思わず詰まり、必死で考える。
そんな宗介の不自然な間も気にせず、フィアッセは笑みを浮かべて言葉を待つ。
そこへ、天の助けか、奥からフィアッセを呼ぶ声が聞こえてきて、フィアッセはごめんねと一言言って、奥へと引っ込む。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、宗介は目の前に置かれたコーヒーに手を伸ばすのだった。

 ◆ ◆ ◆

大学で講義を受けている恭也は、しかし、講師の声も殆ど聞こえていなかった。
いや、聞こえるには聞こえているのだが、心ここにあらずといった感じで、思考は違う事を考えていた。
ミスリルに所属するという宗介の腕を信じない訳ではないが、やはり、気になるものは仕方がない。

(やはり、講義を休んででもフィアッセの傍に居るべきだったか。
 いや、しかし、そうすると、今度は逆に心配されるかもしれないし)

とりあえず、今日出なければいけない講義はこれだけなので、終ればすぐに翠屋へ向おうと考え、
恭也は隣で寝ている友人のためにノートを取り始めるのだった。
因みに、この後、恭也の憂いを帯びた顔の事が、この講義に参加していた一部の女子の間で話題になるのだが、それは関係のない話。

 ◆ ◆ ◆

店に居る事、約二時間。
奥から桃子がやって来て、宗介へと話し掛ける。

「相良くん、ひょっとして恭也と待ち合わせでもしてるの?」

「はっ。その通りです」

実際は違うのだが、咄嗟に他の言葉が出てこず、桃子の言葉を肯定してしまう。

「そうなんだ。じゃあ、あの子、今日は講義一つか二つしか取ってないね」

桃子はそう零しながら、宗介の前にクッキーを置く。

「これでも食べて待っててね」

「ありがとうございます」

ピシッと背筋を伸ばして礼を言う宗介に、桃子は少し驚きつつも笑みを浮かべてまた奥へと戻る。
宗介は出されたソレを掴むと、口へと放り込み、小さく感嘆の声を上げる。

「これは、美味い」

宗介は更にクッキーを口へと入れて、それを味わう。
と、不意にその眼差しを鋭くしたかと思うと、宗介は席を立つ。
宗介が向うその先では、フィアッセが客の相手をしていた。

「ねえ、ちょっとだけ良いだろう」

「お客様、他のお客様の迷惑になりますから」

「じゃあ、休憩時間を教え……」

男は、途中で現われた宗介によって、最後まで口にする事ができないまま、椅子から引き摺り落とされる。
宗介は男の口へと銃口を突っ込み、低い声で囁く。

「さあ、言え。何の目的で彼女に近づいた」

「ふがふが」

「素直に吐いたほうが身のためだぞ。ここで意地を張っても。お前には何の得もないぞ。
 それでも話さないと言うのなら、こちらにも相応の用意がある」

「ふがふが」

「さあ、楽に話すか、苦痛を味わったあとに話すか、好きな方を選べ」

「ふがふがふがふ」

「そうか、そう簡単には話さないか。しかたないな」

そう言って頭を振る宗介を、涙目で見上げつつ、男は必死で首を振ろうとするが、うまく動かせない。
それをどう判断したのか、宗介は更に低い声を出す。

「じたばた暴れるな。あまり面倒を掛けるようなら、動けなくするぞ」

宗介の言葉に大人しくなった男に満足しつつ、

「よし、素直なのは良い事だ。その調子で、大人しく話してくれると助かるんだが」

「ふぐふぐ」

「そうか、話す事はしないか。なら、仕方がない」

そう言い放つと、宗介は懐へと手を入れ、大振りのナイフを取り出す。

「あまり手荒なことはしたくなかったんだが……」

そう男に言い放つ宗介の後ろから、フィアッセが遠慮がちに声を掛ける。

「宗介。その人、話さないんじゃなくて、宗介がソレを口に入れているせいで話せないんじゃ…」

フィアッセの言葉に、男が微かに首を縦へと振る。
それを聞き、宗介は小さくあ、と零すと、銃口を男の口から抜く。

「さて、これで話せるな。一体、何の目的で彼女に近づいた」

「り、理由なんて特にないよ。た、ただ、彼女が綺麗だったから」

男の言葉に宗介は眉を顰め、誤魔化すつもりかと問いただそうとするが、先にフィアッセが口を開く。

「宗介、もう良いよ」

「しかし」

まだ何か言おうとする宗介を制し、フィアッセが男へと話し掛ける。

「お客様、これに懲りたら、店内でのナンパはご遠慮くださいね」

「わ、分かったよ」

男はそう言うと、足早にレジへと向う。
それを見遣りつつ、宗介は以前に聞いたナンパの言葉の意味を思い出し、刺客ではなかったかと安堵する。
そんな宗介へと、フィアッセが少し怒ったように注意する。

「宗介も、幾らお客様が悪かったといっても、あれはやり過ぎよ」

「しかし、俺は恭也さんに留守を頼まれて……」

そこまで言って、宗介は慌てて口を噤む。
それを聞き逃す訳もなく、フィアッセの目が鋭く光る。

「恭也が何か言ったの?」

「い、いや、何も」

「くすくす。そっか、恭也が宗介にそんな事を頼んでたんだ〜♪」

何故か、突然、機嫌の良くなったフィアッセに困惑しつつ、話がそれたみたいなので、ほっと胸を撫で下ろす。
そんな宗介の心情など知る事もなく、フィアッセは未だに手に握られている銃とナイフへと目を向ける。

「とりあえず、それは仕舞ってね。
 それにしても、やっぱり恭也の友達だね。そんなものを持ち歩いてるなんて」

フィアッセは呆れたように呟くと、思い出したように尋ねる。

「ひょっとして、仕事って、護衛関係とか?」

「い、いや、ちが、違う」

しどろもどろになりつつ否定する宗介を気にも止めず、フィアッセはもう一度注意しておく。

「兎に角、もうあんな事をしたら駄目だからね」

「は、はい」

シュンと、捨てられた子犬のように大人しくなると、宗介は席へと戻る。
そんな宗介を見送り、フィアッセは先程の客のカップを片付けるべく動き始める。
食器を洗い場へと運ぶと、新しい注文を聞き、奥へと伝える。

「桃子さん。何か、フィアッセさんご機嫌ですね」

「そうみたいね。何か、良い事でもあったのかしら」

奥でそんな話がされているとも気付かず、フィアッセは機嫌が良いまま仕事をこなしていく。
それから少しして、扉が開く。

「いらっしゃいませ〜。って、恭也〜」

やって来たのが恭也だと知り、フィアッセは更に笑みを深める。
そんなフィアッセを見て、今日は機嫌が良いみたいだなと考えつつ、カウンターにいる宗介に気付く。
美味しそうにクッキーを頬張っていた宗介の横に腰を降ろした恭也の元に、フィアッセがすぐさまやって来る。

「恭也は何にする」

「コーヒーで」

「はーい」

上機嫌でそう答えると、フィアッセはカウンターの中へと入り、コーヒーを作り出す。

「フィアッセ、何か良い事でもあったのか」

あまりにも機嫌の良いフィアッセに、恭也が不思議そうに訪ねる。
それに対し、フィアッセは笑みを更に深めると、

「フフフ。あったと言えばあったし、なかったと言えばなかったかな」

「何だ、それは」

「何だろうね〜」

要領を得ない会話だが、まあ機嫌が良いのは良いことだと納得する恭也だった。
そして、今日も一日、何事もなく過ぎて行く。




つづく








<あとがき>

鋼鉄の守護者、やっと二話目です。

美姫 「遅すぎるわね……」

反省……。

とりあえず、今回はまだまだ事態に進展はなし。

美姫 「そろそろ次辺りで?」

どうだろうか。

一応、全十話ぐらいの予定なんだが。

美姫 「アンタの予定ほど信じられないものはないわよね」

あ、あははは、それを言われると言い返せない……。

美姫 「とりあえず、さっさと次回も書きなさいよ」

わ、分かってってば!

美姫 「皆さん、それでは見捨てないでやってくださいね」

ではでは。

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