『鋼鉄の守護者』





〜第三斬〜





深夜の鍛練を終えた恭也は、自室で宗介と話をしていた。

「昼間の件は、フィアッセから聞いた」

「はっ。申し訳ありませんでした」

「いや、別に怒ってはいないさ。事情が分からなかったんだから。
 それよりも、迅速な行動力には目を見張る」

「ありがとうございます」

「フィアッセも、自分が有名人だという自覚を持って欲しいんだが…」

「しかし、それも仕方がないのかもしれません。
 自分は、今まで紛争地帯でずっと生活してきました。
 初めて日本に来た時は、その危機管理の低さに驚いたぐらいですから」

「まあ、確かにな。普通の人たちにとって、誰かに命を狙われるなんて事は、まずは起こらない事だろうから」

「はい。自分も、日本で過ごして、それに気付きました」

「…まあ、とりえずは、どうやって気付かれずに護衛をするかだな」

「はっ」

まるで敬礼するように言う宗介に、恭也は苦笑しながら言う。

「宗介くん。そんなに畏まった話し方はやめてくれ。
 友達なんだから、もっと普通に」

「了解であります」

「いや、だから…」

「はっ! じゃなくて、すまない。えっと、これで」

「ああ、その方が話し易い。それと、名前は呼び捨てで構わないから。
 俺も、これからは宗介と呼ぶことにするから」

「分かりま…。分かった、恭也」

「ああ。さて、話を戻すか…」

「ええ。昼間の護衛なんですが、毎日、意味もなく店内にいるのは無理かと。
 かといって、近辺にあの店を見張れるような建物も…」

「夜、この家にいる間は、俺か宗介がいるから問題はないとして、やはり、翠屋でバイトをしている間が問題か」

「ええ。流石に、白昼堂々と人通りの多い所での誘拐は考え難いのですが…」

「全くないとは言えないしな。それこそ、幾らでも手は考えられるだろうし」

「その通りです」

二人は布団の上に座ったまま、お互いに黙り込む。

「暫らくの間、大学を休むか」

「しかし、それでは変に思われるんでは…」

「うーん」

また黙り込むと、二人して首を捻る。
と、恭也の視線が宗介の顔で止まる。
じっと見てくる恭也に気付き、宗介も恭也を見返す。
どれぐらいの時間、そうしていただろうか。
やがて、恭也は何かを思いついたような顔になる。
それを見て、宗介も何となくだが察しが付いたようだった。

「これなら…」

「まさかとは思うが…」

「ほう、察しが良いな」

「……本気か?」

「ああ。他に、何か良い案があるのなら聞くが」

「…………」

恭也の問い掛けに、しかし、宗介は何も答えられない。
それを受けて、恭也は一つ頷くと、

「よし、決まりだな」

「…分かった」

「しっかり、頼むぞ」

「善処する」

恭也は宗介の肩へと手を置くと、そう言う。
それに対し、宗介も頷き返すのだった。

翌日から、翠屋に新たなバイトの姿が見られるようになる。

 ◆ ◆ ◆

ミスリルの本拠地、メリダ島の基地内。
今、ここの格納庫では、何十人もの人間が忙しそうに動き回っている。
それらを、少し離れた所から見つめる三つの影。
その真中に立つ一人の少女が口を開く。

「マデューカスさん、作業はどのぐらい掛かりそうですか」

「そうですな…」

マデューカスと呼ばれた男は、手元の書類に目を通しながら、他の報告内容を思い返す。

「磨耗した部品の交換に加え、幾つかの改良。それに加えて、前回の作戦で負った傷の修理。
 ざっと一ヶ月近くは掛かりますな」

「そんなにですか」

「はい。トゥアハー・デ・ダナンはすぐに稼動できませんが、移動手段が全くないわけではありませんので」

「そうでしたね。幸い、今は大きな作戦もない事ですし。
 では、例の件はどうなってますか」

その言葉に、少女を挟んで、マデューカスとは逆の位置に立っていた男が口を開く。

「はい。ウルズ7は、プリンセスへと問題なく接触したようです。
 今は、同じ職場で働きながら、護衛に当たっています」

「職場? ああ、彼女は確か、今は休暇で知り合いの喫茶店で働いているんでしたね」

「はい、その通りです」

「何事もなければ良いんですが…」

「今、情報部の方で、彼女を狙っている組織を調査していますので、それが済み次第…」

「ええ、分かってますよ、カリーニンさん」

そう答えると、少女は疲れたような息を吐き出し、軽く眉間を揉むような仕草を見せる。
それを見たマデューカスが、少女へと言う。

「大佐、お疲れのようですので、この機に休暇を取られては…」

「そういう訳にもいきませんよ。ただでさえ、例の件を抱えているんですから」

そう言った少女に、カリーニンが口を開く。

「それでしたら、当分は、進展はないかと思います。
 勿論、何か分かり次第、お知らせしますので。
 マデューカス中佐の言う通り、少しは休まれた方が」

「……そうですか。でしたら、休暇を取ってちょっと出掛けてこようかしら」

「旅行ですか」

少女の言葉に、カリーニンがそう言うと、それに頷く少女へと、マデューカスがすかさず口を開く。

「まさか、東京ではないでしょうな」

「いえ、今回は違いますよ」

「そうですか。いえ、別に東京が悪いと言っている訳ではないのです。
 ただ、陣代高校は…」

「大丈夫です。今回は、海に近く、周囲を山に囲まれた、とても穏やかな気候と言われる街へと行こうかと思ってるんですよ」

「ほう。それはとても良さそうな所ですな。バカンスにはもってこいかもしれませんな。
 でしたら、どうぞお時間の許す限り、ゆっくりしてきてらして下さい」

「はい、ありがとうございます。では、お言葉に甘えますね」

そう言ってニッコリと微笑む少女を見て、マデューカスは珍しく口元を綻ばせるのだった。
しかし、少女の行き先の地名を聞くた途端、急に険しい顔付きになると共に、
ここへ行くことも禁止しておくのを忘れた事を、激しく悔やむ事になるのだったが。
しかも、それに対して何か言おうとするよりも先に、ついでに例の件の真偽も確認もしてくると言われれば、
口を噤む事しか出来ないため、結局は、少女の出発を大人しく見守る事しかできないのだった。
そして、その一悶着を起こさせる事となった、その少女が向かう場所は…………海鳴となっていた。




つづく








<あとがき>

次回、あの少女が海鳴に!?
果たして、その少女とは。

美姫 「分かりきってるじゃない」

だよな。うーん、マオ姉さんだって、バレバレか〜。

美姫 「いや、それは違うでしょう」

あははは〜。まあ、冗談はさておき、未だに敵のての字も出てきていない…。

美姫 「本当に、狙われているのかしら?」

それはどうかな〜。
と、今回はこの辺で。

美姫 「それでは、また次回で〜」

ではでは。

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