謎の新薬  〜番外編2〜







カラン



最近、とみに男性客の増えた翠屋のドアベルが音を立て、来客を告げる。



「いらっしゃいませ〜」



軽快なフットワークで入り口まで歩き、

笑顔を浮かべながら挨拶をするウェイトレスたちの中、あまり笑顔を浮かべない女の子がいた。

そんな女の子に、店長が直に話し掛ける。



「恭、駄目よ。ちゃんと笑顔を浮かべないと」



「分かってはいるんだが」



「まあ、アンタの場合は、その方が男女問わずに客受けが良いから、何とも言えないんだけどね。

 でも、笑顔を自然と出せるようになれば、きっと今以上に人気が出るはずなんだから」



それだけを言うと、店長にして、恭、もとい恭也の母親でもある桃子は厨房へと戻っていく。

その後ろ姿を眺めながら、



「それだけを言う為に、わざわざフロアまで来たのか?」



そう呟いていた。

それから暫らくして、客足も少し収まった頃、新たなる来客が現われる。



「いらっしゃいませ〜」



バイトの子の声を背中に聞きながら、今しがた会計を済まして帰られた客の食器を下げる恭也。

そんな恭也の背中から、声が聞こえる。



「あ、お姉さま!」



「さ、冴ちゃん、声が大きいよ」



「ごめん、ごめん」



冴は反省してるんだか、いないんだか分からないぐらい大きい声で謝る。

その声を、いや、正確には呼び方を聞き、恭也は恐る恐る後ろを振り返る。

そこには、満面の笑みを浮かべた二人の女性がいた。

少し前、質の悪い男たちに絡まれている所を恭也が助け、

それによって恭也が皆から恭と呼ばれる原因となった、大宮冴と宮内雛だった。

恭也は頭が痛くなったような気がしながらも、二人にぎこちなく笑いかける。



「どうしたんだ、二人して」



「この間のお礼を言いに来ました、恭お姉さま」



雛が小さな声で言う。

それを受け、冴も口を出す。



「本当は、もう少し早く来たかったんですけど、こんなに遅くなってしまいました。すいません」



「いや、それは別に構わないんだが」



「今日は土曜日で、授業が午前までだったから、急いで家に帰って着替えて来たんですよ」



まるで褒めて褒めてと尻尾を振る子犬のような笑顔で、恭也を見詰める冴。

その視線に少したじろぎながらも、二人を席に案内すると注文を聞く。

注文を取り、厨房へとオーダーを流しに良く恭也の後ろ姿に見惚れる二人。 厨房へと注文を流し終え、仕事に戻る恭也。

そんな恭也の様子をずっと見つづける二人だった。

やがて、二人の注文した品が出来上がり、恭也が持っていこうとする。



「ん?注文してない品があるぞ」



恭也は桃子へと声を掛ける。

それに対し、桃子はフロアまで出てくる。



「かーさん、何の用だ」



「ふふふ。あの子たちが、恭の事をお姉さまって呼んでる子たちなんだ」



桃子が面白そうな顔をして告げる。



「で、恭。アンタ、今日はもうあがって良いわよ。そこにあるコーヒーはアンタのだから。

 ほら、折角訪ねて来たんだから、あんまり待たせたら駄目よ」



そう言って、桃子は恭也の背中を軽く、そっと押す。

恭也は溜め息を吐きながらも、二人の所へと行く。



「ご注文の品は以上で宜しいですか?」



「「はい」」



「じゃあ、俺は今日はもう上がるんで」



そう言った途端、二人は表情を暗くするが、続く恭也の言葉を聞き、一転させる。



「一緒させてもらっても良いかな」



「ど、どうぞ!雛、こっちに」



「う、うん」



雛と冴は並んで座り、その対面に恭也が座る。

恭也は席に着くなり、二人に話し掛ける。



「わざわざお礼を言う為だけに、来なくても良かったのに」



「そ、そんな事ありません。助けて頂いたんですから」



「雛の言う通りです。それとも、お姉さまは私たちが来て、迷惑でしたか」



ここで、うんと言えるような恭也ではなく、恭也は否定の言葉を口にする。

その返事を聞き、二人はまたしても嬉しそうな笑みを見せる。

それから三人は、他愛のない話をする。

と、言っても、主に話すのは冴と雛の二人で、恭也はその二人の話を聞いては相槌を打っていた。

と、話が途切れた所で、雛が不安そうな顔を見せる。



「恭お姉さま、退屈じゃありませんか?私たちばかり、お話してしまって」



「ああ、そんな事はない。話を聞いてて、面白かったし、それに、俺はあまり話すのが得意じゃないからな」



「そうですか。良かったです」



恭也の言葉にほっと胸を撫で下ろす雛。

そんな雛を見ながら、冴が今気付いたように話す。



「お姉さまは、ご自分の事を俺って言うんですね」



「えっと、可笑しいかな?」



内心、しまったと思いつつも平静を装い尋ねる。

それに対し、冴は笑みを浮かべると、うっとりとしたような表情で呟く。

「いいえ、そんな事はないです。寧ろ、お姉さまには似合ってます」



「そ、そうか」



冴の言葉に、そう答えて良いのか分からない恭也は、とりあえず返事だけしておく。

それだけで充分なのか、冴は嬉しそうな顔のまま、目の前のストローに口をつける。

すると、今度は雛が話し出す。



「それで、ですね。恭お姉さまのお話をしたら、誰も信じてくれないんですよ。

 そんな人がいる訳ないって。雛の妄想だろうって。酷いと思いませんか」





いつになく激しい口調で言う雛に、冴も同調するように頷く。



「本当だよね。実際に私たちの目の前にいるって言うのに。

 ああー!今、思い出しても腹が立つ!ちゃんとこうして、そのお姉さまがいるって言うのに」



「冴、落ち着いて」



雛が自分以上にヒートアップする冴に、落ち着かせようと声を掛ける。

そこで、冴はポンと手を打つと、



「そうか。今度、皆を連れてくれば良いんだ。そうしたら、私たちが嘘を吐いたんじゃないって分かるし」



冴の言葉に、雛も嬉しそうに頷く。



「そうだよ。そうすれば、皆も信じてくれるよ」



このまま放っておくと、思わぬ事態が起こりそうな予感を感じ、恭也は口を挟む。



「あー、すまないがそういった事は」



「駄目ですか?」



「でも、このままだと私たちが嘘を吐いたって事になるんです。お姉さま、お願い」



二人に見詰められ、きつく言う事が出来ない恭也だったが、ここで断わっておかないと、と思い直し口を開く。



「しかし、そんなに大勢連れてきたら、店のお客さんに迷惑が掛かるから」



この言葉には、冴と雛も大人しくなる。

ほっと胸を撫で下ろす恭也だったが、冴が再び顔を上げる。



「そうだ!だったら、お姉さまにうちに来てもらったら」



「あ、そうか」



「はい?!」



冴と雛の言葉に、恭也は素っ頓狂な声を上げる。



「何でそうなる?」



「だって…。そうしないと、私たちが嘘つき呼ばわりされるし…。ううん、そんな事はどうでも良いんです。  でも…」



冴の言葉を雛が引き継ぐようにして、話す。



「でも、恭お姉さまの事を、そんな人いないって言いながら笑ったのが許せません!」



「いや、俺は気にしないから」



「駄目です。お姉さまに助けてもらったのに、そんな事ある訳ないなんて言われたままじゃ」



「いや、しかし」



何とか逃れようと言葉を探す恭也の肩を、誰かがそっと叩く。

恭也には振り返らずとも、それが誰だか分かり、そしてその人物が口にするだろう言葉まで分かった。

そうと知りつつも、恭也は自分の予想が外れてくれる事を祈りつつ、後ろを振り返る。

そして、見事に予想が当たり、祈りが無残にも打ち破れる。

「恭〜。駄目よ、可愛い妹分たちのお願いを聞いてあげないと」



いきなり現われて、自分たちに加勢してくれる人物に首を傾げる二人。

そんな二人に、桃子は笑顔で答える。



「私はこの子の母親で桃子っていうのよ。宜しくね」



「お、お姉さまのお母さまですか!」



「は、初めまして」



慌てたように頭を下げる二人に手を振って答えると、桃子は恭也の横に座る。

そして、



「じゃあ、来週にでも学校帰りにここに来なさい。勿論、その子たちを連れてね」



「え、でも、それだと店に迷惑が…」



「大丈夫、大丈夫。この店の店長が良いって言ってるんだから」



桃子は朗らかに笑いながら言う。



「店長?」



そんな桃子の言葉を雛が聞き返す。

恭也は溜め息を吐くと、



「これが、俺の母親で、この店の店長だ」



「コレって何よ、コレって」



恭也の言葉に驚いている二人の前で、恭也と桃子はじゃれ合うように話していく。

そんな二人に、冴が声を掛ける。



「えっと、じゃあ来週にもう一度来ても良いですか?」



桃子ではなく、恭也を見て言う。

雛も同じ様に恭也を見詰める。

そして、恭也の横では桃子が肘で恭也の脇腹を突付く。



「はぁ〜。来週、夕方に来たら良い」



恭也の返事を聞いて、雛と冴は手を合わせて喜ぶのだった。

恭也の受難は、まだまだ終りそうもない。









おわり






<あとがき>



恭也お姉さま第二段。

美姫 「調子に乗って誕生!」

このまま第三弾、第四段と続くのか。

美姫 「それとも、ここで終わりになるのか」

それは分からない〜。

でも、そろそろ違うネタを投稿しないとね。

美姫 「確かにね。いつまでも、タカさんのネタで引っ張る訳にもいかないしね」

よし、頑張るぞ〜!

美姫 「頑張って〜。応援だけはしてあげるから」

へいへい。そんな事だと思いましたよ。

とりあえず、また!

美姫 「バイビー、ベイビー」

美姫、それ面白くない。

美姫 「五月蝿いわよ!」

ドカッ!

ぐえっ…。





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